※暗い&百合要素あり(たいしたことはないです)※



 




私はいつも姉のおさがりを着ていた。

姉は飽きると私に譲り、新しい服を買った。

私は自分で服を買うことはなかった。


でも、それでよかった。



それは私達にとっては当たり前のことだった。

姉はビー玉のように大きな目で、どこにいても人目を引く美人だった。

服はいつも高いものばかり  派手なものばかり。



私は姉とは違い、平でつかみどころのない顔だった。

だから、姉の服が私に似合うことなど有り得なかった。




でも、私はそれでよかったのだ。










ある日、姉が真白な絹のスカーフを私にくれた。

模様は何もなかったが、それでもうっとりしてしまうような代物だった。

とても姉に似合っていた。

珍しくそれは長く姉に気に入られ、よくデートにそれを巻いて出掛けていた。

いつも、私が巻いてあげた。



ある男と喧嘩別れをした夜、姉は泣きながら私の部屋に入り、そのスカーフを渡してきた。

私に寄り掛かり声を殺して泣き続け

化粧も落とさないまま静かに眠ってしまった。

私は隣に座り、長いウェーブのかかった髪を一晩中撫でてあげた。

泣き腫らし 青白くなった  私とまったく似ていない姉の顔

私だけが知っている彼女の姿


私はスカーフを巻いてみた



恐ろしく、似合わなかった。










姉はとても男性にもてた。

私の知る限りでは、6人の男と付き合った。

どれもあまり長くは続かなかったし、どの男も最後には姉を苦しめた。

私は小さな会社で事務の仕事をし

姉はある高級ブランド店で働いていた。

社交的なため付き合いも多く、帰りが遅くなることはしょっちゅうだった。

姉が帰らない夜、私は無意味に本を読み続けた。









姉が結婚してからしばらくして、私も結婚した。

姉の夫は今までにない  平凡な男だった。

顔も悪い

金もない

頭も悪そうな男だった。




私の夫はある会社の社長の一人息子だった。

これもまた

頭の悪い男だった。




私は大きな屋敷に住むことになった。

手伝いの人もいた。


夫は私にたくさんのプレゼントをくれ

わたしは花の咲き誇る広い部屋で

いつも一人

座っていた。


自分がとても小さくなったような気がした。










あのスカーフは汚してしまった。

ひとりでコーヒーを飲んでいて、こぼしてしまった。


熱い熱が私の胸を流れても

私は何も感じなかった。

こんな力、感覚さえ 私から消えていこうとしていたのだ。


私は茶色く変色したスカーフを手に取り、長く  長くキスをした。










私は昔 よく人に言われた。

もっと自分の意思を出しなさいと

姉のおさがりのことも、友人はおかしいと指摘した。

自分の好きな服を買えばいいじゃないと言った。


でも、私は理解できなかった。

その友人も

私自身も。



私は姉の服が似合っていないことは始めからわかっていたし

それを着るのは  確かに苦痛だった。


それでも姉のものを体に纏うことが、私にとって最高の贅沢だったし

姉と 少しでも

つながっていられると思っていたのだ。










ある日、姉が家にやって来た。

その姿は昔とは違い、

色のない  平凡な服を着ていた。


少し様子がおかしいので、何か話があるのかと思えば

ただ遊びに来ただけだと彼女は言った。




手伝いの人がお茶を運んで、

私達は二人  薔薇の見える窓辺に座った。






「素敵な家ね」


何度も姉はそう言って、紅茶を飲んだ。

目は遠く  こっちを見てはくれない。

しばらく外の世界の音に耳を傾けていた。













美しい





姉は美しかった。





それは昔の輝きとは違う


深く

強い  ものだった。



私は眩しく光る姉の白い肌をじっと見つめていた。


私の方で光るのは  身に付けている宝石ばかり







「もう私に服をくれないのね」




私がつぶやくと、姉は少し驚いたようにこっちを向き、

そして置いたカップに目を落として言った。

「もうその必要はないでしょう」










姉は何も言わずに帰っていった。




私にはわかる。

でも、

昔のように 私に寄り掛かって泣いてはくれなかった。




私は自分の身に纏わりついている無意味な石や布を引きちぎり

静かに泣いた。





あの白い肌が私のものになったとしても

私は汚してしまうだけなのだから










end







わたくし姉がおりますが

こういう感情は全然ないです。

読んでいただいてありがとうございました!