僕のクラスに変な子がいる


僕のクラスに変な子がいる。
今度の席替えで僕は隣になってしまった。

その子はとても整った顔をしていて、 なぜか必ず一番後ろの窓側の席になるのに
ちっとも日焼けをしないし汗もかかない。
手足はすらっと長く、
遠くから見てもわかるような長いまつげをしている。
女子からも人気があって、よく彼のうわさ話を耳にする。



誰も彼の声を聞いたことがない。

誰かが
「宝石が水面の上を飛びはねるような感じの声」

とかなんとか言っていたけど、 あれ、 絶対うそだ。



そんな彼。
一体どこがおかしいのかというと、
登校してから席に着き、そしてずっと『弥勒菩薩』のポーズをとっているのだ。

弥勒菩薩っていうのは… 僕はあまりよく知らないのだけれど、
みんなを救ってくれる仏様らしい。
手をほほにあてて足を組み、なんとも言えない笑みを浮かべている。
写真は見たことがある。



日差しが彼を照らすと、それはもう弥勒菩薩そのものだ。


彼はけっして体勢をくずさない。
授業はじまりも、起立などしない。
もちろん手を挙げて発表なんてしないし教科書も出すことはない。

先生は怒るにも、あのポーズをして輝いている彼を怒れるわけがなく、しぶしぶと授業を続ける。
(おそらく彼がいつも同じ席になるのは先生のたくらみだ)



彼はけっして動かない。
避難訓練のときも
スズメバチが教室に入ったときも
彼はけっして動かない。

昼食のときはいつの間にかどこかに消えている。
そして5限目になると すらっ… と戻ってきてまた同じ姿勢を作る。





隣の席になった僕は緊張していた。
話かけたいけど、彼のまわりのオーラがそれを許さない。
(この場合”後光”かな)


僕は前から彼のことが気になっていた。

どうしてずっとそうしてるの?
何の意味があるの?
何か得するの―…



僕はちらちらと彼を見る。
授業どころじゃない。
彼は、僕なんかまるで存在していないかのように、ただただ弥勒菩薩であり続ける。


僕は気がつくとボーッと彼を見つめていた。
あまりにボーッとしすぎて、手から消しゴムが落ちて床に転がってしまった。

あわてて我に返り、拾おうとした


そのとき


なんと彼の手がほほから円を描くように動きだして、
彼は身を乗り出して そのまま僕の消しゴムを拾った!!(彼の方が遠いのに!!!)




彼はそれをそっと僕の手に返すと、また 手をほほに添えてあの…

すべてを見透かすような美しい笑みでゆっくりと僕にほほ笑んだ。


「あ…ありがとう」


うまく声が出なかった。僕はしばらく呆然としていた。


何が起こったんだ?
夢を見てるのか?



…いや。確かに彼は隣にいる…。
あの 神々しい姿で…





もう彼の家のことなんかどうでもいい。
何のためにやっているかなんて

どうでもいい。





もう僕は彼について行くしかなさそうだ。








end


弥勒菩薩の美しさに酔って昔書いてしまったもの。

友達に見せたらひとこと

「アホやん」

ていわれた。